ーこの記事でお伝えしたい3つのポイントー
①お客様の許諾をベースに収集するゼロパーティデータに強い期待感
②顧客を推測するアプローチから、許諾ベースの価値交換のアプローチへ
③自社におけるゼロパーティデータの価値
GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)にみられるように、個人情報をめぐる法規制の検討や施行が世界各国で進んでいます。日本でも2020年6月に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、ブランド企業における消費者データの取り扱いは今後ますます制限されていきます。
そんな中、チーターデジタルが世界6カ国の消費者を対象に行った調査では、日本の消費者はブランドが提供する価値が自身の価値観に見合う場合、自身の情報を進んでそのブランドに提供する意向があることがわかりました。(参考:チーターデジタル 消費者意識調査レポート )
これはまさに、価値交換のうえで消費者の趣味嗜好や購買意向などの情報を収集する、*ゼロパーティデータの考え方そのものであると言えます。(*ゼロパーティデータの具体的な説明に関しては、こちらのブログをご参照ください。)このような情報を消費者の同意を得ながら取得し、いかに効果的に活用できるかが、今後のデータ活用を大きく左右するポイントとなります。
この記事では、各業界を代表する3名のトップマーケターに伺った、「ゼロパーティデータの価値」「今までのデータ活用とこれからのデータ活用」に関する見解を纏めました。
写真左:株式会社ディノス・セシール CECO(Chief e-Commerce Officer)石川 森生 氏
写真中央:株式会社JTB データサイエンスセントラル統括 戦略担当部長 福田 晃仁 氏
写真右:Zフィナンシャル株式会社 統合戦略部長 清水健 氏
冒頭で触れたとおり、ゼロパーティデータの収集には、顧客との価値交換が必要です。今回お話を伺った3名の中には、顧客が抱く自社のブランド価値を分析し、価値交換のあり方やリワードの仕組みを具体的に検討するプロジェクトが始動しています。
①お客様の許諾をベースに収集するゼロパーティデータに強い期待感
ゼロパーティデータという言葉は、2018年に米国調査会社のフォレスター(Forrester)が提唱した用語ですが、その概念を初めて聞いたときに、3名のマーケターはどんな価値を感じたのでしょうか。まずは、ゼロパーティデータに対しての率直な印象を伺いました。
福田氏:
「国内旅行において、ウェットなコミュニケーション≒おもてなし、という図式が根強くある。これをベースに、旅行者独自のアレルギーなどの実質的なニーズと趣味嗜好などのマインドセットを組み合わせたマーケティングが重要と考えている。そういった観点からゼロパーティデータの説明をチーターデジタルから聞いたときは、ブランドとお客様のコミュニケーション自体を変えていくものになると可能性を感じた。」
石川氏:
「ディノス・セシールのような小売業社にとって、顧客のリテンションが利益の源泉となる。そのため自分たちの顧客が今何を欲しているのかというゼロパーティデータを収集し、顧客の属性データや行動データなどと掛け合わせることで、顧客理解の解像度が高まり今のビジネスモデルそのものに変化を与えられるかもしれない。」
②顧客を推測するアプローチから、許諾ベースの価値交換のアプローチへ
ゼロパーティデータの考え方が定着していなかった今までは、それぞれの業界でどのようなデータ活用がされていたのでしょうか。次に今までのお取り組みを聞いてみました。
清水氏:
「これまで金融業界では、精度の高い属性データを使いコミュニケーションのパーソナライズをしていた。例えば生年月日を基に、お客様が家の購入を検討すると推測されるタイミングで、住宅ローンの提案をするなど、人生の限定的なライフイベントを対象としたビジネスモデルであった。」
石川氏:
「顧客の行動データをベースとした類推を行い、だれにいつカタログを郵送すれば、高いレスポンス(購買)を出せるのかを長年研究してきた。だたし、こうした行動データに基づくアプローチには限界を感じており、これ以上レスポンス率を伸ばすのは難しいと思っている。」
お二人のコメントでも分かる通り、多くの業界では属性データや行動データから顧客を推測するデータ活用が主流でした。しかしこのアプローチでは、顧客の潜在的なニーズの把握が難しかったり、どんなに多くのデータを活用しても推測できる精度には限界があります。そのため、顧客により最適なブランド体験を提供するためには、顧客自身しか知りえない情報を許諾の基に直接顧客から聞くことで、データの精度を高める必要があります。
③自社におけるゼロパーティデータの価値
最後にゼロパーティデータがどんな役割を果たせるのか、これからのデータ活用に関してアイデアを伺いました。
福田氏:
「旅行業界はコロナ禍の影響を大きく受けている。顧客がアクションを再開する際に、純粋想起的な関係を維持する必要があると考えている。具体的には、モダンチャネルのインタラクティブ性に注目し、将来お客様が行きたい旅先の情報を直接ヒアリングするようなコミュニケーション設計の検討を始めている。」
清水氏:
「今後はお客様の潜在的なニーズを把握し、日々の生活のシナリオの中で金融の出番となるシーンに注力して継続的な信頼を獲得していくことが重要。ゼロパーティデータを活用することで、そのような出番を探るためのキーワードを拾い出せると感じている。」
いかがだったでしょうか?3名の意見でもあった通り、今まで多くの企業が扱っていた属性データや行動データに加え、消費者の許諾情報を基に価値交換を行う新しいデータ活用のアプローチが、さらなるマーケティングの可能性を広げるのではないでしょうか。
消費者の個人情報の取り扱いがますます制限される今後において、自社のブランドにおけるゼロパーティデータの価値を考えることが、これからのデータ活用にむけたファーストステップとなりそうです。